一と壱の疑問を徹底解明!昔からお互いになくちゃならない存在だよ

漢字

「一」を広辞苑で調べると「一・壱」とあり、「どちらも同じ意味ですよ」みたいな位置づけです。そういえば、香典袋に金額を書く時は「一万円」じゃなくて「壱万円」と書いたりしますよね。

呑気な私はそれがどうしてなのか気にも留めずにいたのですが、考えてみたら「一」と「壱」ですよ?まったく字が違うのに、どうして同じ扱いなんでしょう?

ここは1,000ページ近くある分厚い漢字辞典の出番とばかり、意気揚々と「一」と「壱」について調べ始めました。今まで難しそうと敬遠していた「篆文」「甲骨文」にも挑みました。

調べ始めると、漢字は子供が書くような絵から始まって、書きやすいように工夫され、カタチを変えて今の姿になったことがよくわかりました。最初の絵をみて「この漢字だ!」と解読した方もすごいなぁと感心します。

この記事では、「一」と「壱」の意味や漢字の成り立ち、同じ漢字のように扱われる理由についてご紹介します!

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「一」と「壱」それぞれの意味

まず、「一」と「壱」のそれぞれの意味を漢字辞典で調べてみました。

「一」の意味

【一】イチ・イツ・ひとつ・ひと-つ

①ひと-つ。②ひと-たび。転じて、わずかな。③ひと-つにする。④ものごとの始め。⑤原理。真理。⑥はじ-める。⑦同一。⑧まじりけがない。もっぱら。⑨あるひとつの。⑩もうひとつの。⑪ひと-えに。⑫一様に。⑬なんと。まったく。⑭ことごとく。⑮あるーいは。⑯壱。(中略あり)

引用元:新漢字辞典第二版 大修館書店

漢字辞典の「一」の意味は16個あり、16番目の意味は「壱」そのものでした。

ちなみに、広辞苑の「一」の意味は9個あります。(↓)

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「壱」の意味

16個の意味がある「一」に対して、「壱」の意味は6個です。

【壱】イチ

①もっぱ-ら。専一。ひとえに。②ひと-つ。③ひとたび。一度。④みな。すべて。⑤ひとしい。同じ。⑥合う。また、集まる。(中略あり)

引用元:新漢字辞典第二版 大修館書店

唯一、「壱」だけが持つ意味は⑥の「合う。集まる」ですが、それ以外の意味は「一」と同じです。

漢字辞典には、四字熟語の「一意専心」は「壱意専心」とあり、「一切」は「壱切」とあります。

ということは、意味において「壱」は「一」と同じと考えて良いでしょう。

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漢字の成り立ちは

次に、それぞれの漢字の成り立ちを見てみましょう。

その前に「甲骨文(コウコツブン)」「古字(コジ)」「篆文(テンブン)」について、簡単にお伝えします。

こちらは漢字の「馬」「月」です。漢字の初期段階である「甲骨文」から今の「行書」まで書かれています。

引用元:新漢字辞典第二版 大修館書店

甲骨文や金文を見ると、なんとか馬と月を表現しようと苦労したことがわかります。

でも「月」はまだしも「馬」は難解です。甲骨文の馬は上が頭、下が尾ですが、金文においては魚に見えます。これを「馬」だと解読された先生はスゴイですね。

甲骨文(こうこつぶん)とは

甲骨文は甲骨文字ともいい、紀元前1300年頃に使われていた最古の漢字です。

古代中国では、王室の祭りや豊作の祈りなど、大事なことは占いで決めていました。その占いの記録を亀の甲羅や獣の肩甲骨(ケンコウコツ)などに刻み付けたことが甲骨文の始まりです。

古字(こじ)とは

漢字はおおまかに、「正字」「異体字」があります。

「正字」とは、中国で18世紀に作られた「康煕(コウキ)字典」を根拠とした標準の字体です。

この「正字」以外に、発音も意味も同じなのに字体が違う「異体字」もたくさんあり、「本字」「古字」「同字」「俗字」にわけられます。

その中の「古字」は特に古い起源があり、金文に由来します。金文とは紀元前1100頃、甲骨文に少し遅れて誕生した漢字のことです。主に青銅器に彫り付けられていました。

篆文(てんぶん)とは

篆文は紀元前200年頃に使われていた漢字で、大篆(ダイテン)小篆(ショウテン)があります。

戦国時代、秦では大篆を使い、秦以外の六国(斉・楚・燕・韓・魏・趙)では古字が使われており、これを六国(リッコク)文字といいます。

秦が六国を統一したのち、大篆を基礎として六国文字の長所を生かした標準字体がつくられました。

これを小篆といい、秦の通行文字とされていましたが、曲線を書くことが大変でした。そこで、早く簡潔に書くことが出来るよう直線的な隷書が誕生しました。

篆文は今でも印章として使われているほか、パスポートの「日本国旅券」の文字にも使われています。

「一」と「壱」漢字の成り立ち

それでは、「一」と「壱」の漢字の成り立ちについて見てみましょう。

「一」の成り立ち

まずは、「一」の漢字の成り立ちについて見てみましょう。

引用元:新漢字林第二版 大修館書店

甲骨文と篆文は横線を引いただけの「一」、古字では「弌」となります。

昔の人は木のボッコを横にして「一、二、三・・」と数を数えたのでしょう。

不思議なことは、甲骨文も篆文も素直に「一」なのに、古字だけが「弌」となっていることです。

「弋」は「式構(シキガマエ)」といい、「式」や「武」などの漢字があります。

「弋」は杭(クイ)の意味をあらわすので、「弌」は「杭が一本」ということでしょうか。ちなみに、「二」の古字は「」、「三」の古字は「」です。

「壱」の成り立ち

「壱」の旧字体は「壹(イチ)」です。

引用元:新漢字林第二版 大修館書店

この壹の篆文は、「壺と吉」をあらわしています。吉はめでたさをあらわします。

画のように「壺を密封し、吉(酒)を造る」様子から、「事が成功するように力を保つ、もっぱら、いちずに」という意味があります。またそこから転じて、「一つ」の意味もあります

「一」と「壱」先に作られたのは

ここで、「一と壱、どちらが先に作られたの?」と疑問がわきませんか?

それについて、明確に記載された文書を見つけることができませんでした。

私としては、「一」は古い起源である甲骨文がわかっていることと、「壱」の意味に「一つ」があることからも、棒をあらわしただけの原始的な「一」が最初に作られたのだろうと思います。

「一万円」を「壱萬圓」と書く理由

香典袋の裏面や領収書に「一万円」ではなく、「壱萬圓」と書くことがありますが、これは数字があまりにも単純なため、自分で数字を書き足すなどの改ざんが容易なことにあります。

そこで日本では701年の大宝律令で、「公式文書には数字の大字を使うべし」と定めました。

「一」「二」「三」の古字は「弌」「弍」「弎」ですが、大字ではありません。「弌」も改ざんの意図があれば不可能ではない造りです。

そこで大字を決める際、「一」と読み方も意味も同じであり、改ざんの余地がないであろう「壱」に白羽の矢が立ったのではないかと思います。

ちなみに「〇」から「十」、「百」「千」「万」までのことを小字といい、それぞれに大字がありますが、この制定に定められているのは「壱」「弐」「参」「拾」のみとなっています。

まとめ

「一」と「壱」の読み方と意味はほぼ同じですが、漢字の成り立ちを見ると共通点はありませんでした。それぞれに違う物が甲骨文や篆文としてあらわされ、書きやすい形へと変化し、現在の漢字に落ち着いています。

「一」と「壱」が同じとして存在する理由は、公式文書等の不正を防止するために定められた「大宝律令」にあります。

「壱」は「一」の大字として、701年の制定以降からずっと使われていますが、この決まりを知らないと「なんで同じなの?」と私のように疑問がわいてしまいますよね。

「一」と「壱」は、同じ読み方、同じ意味を持つもの同士として巡り合い、今もお互いになくてはならない存在なのです。

以上が、「一」と「壱」の違いについて調べて、たどり着いた私の結論です。

最後までお読み頂いて有難うございました!

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