「まかない料理」や「まかないさん」の語源は「まかなう」ですが、いつから、どうしてそう呼ばれるようになったか不思議ではありませんか?
「まかなう」は平安時代、「もてなす」という意味で使われており、いまの「まかない料理」の意味とは違います。
また「まかなう」は、北国では方言としての顔もあります。
私の住む北海道や寒い地域の人々にとっては、相手を思いやる愛情あふれる言葉として日常的に使われています。
なぜ寒い地方で、今も方言として受け継がれているのでしょうか?
「まかなう」本来の意味と、北国の住人はどのような場面で、どう使いこなしているのかをご紹介します。
「まかなう」の意味は?
まかな-う(賄う)
①なんとかやりくりして、まにわわせる。「千円で―」
②食事を出す。
引用元:三省堂国語辞典 編者代表金田一京助
「まかなう」は、①なんとかやりくりして間に合わせる ②食事を出すの意味があります。
奈良時代からある古語として、手紙を書くための硯(すずり)を準備する場面で使われていました。
平安時代の「枕草子」や「源氏物語」から、朝食であるお粥を用意する場面で「食事をととのえて出す」「もてなす」の意味として使われるようになりました。
それが今の「まかない料理」「寮のまかないさん」という言葉へつながっています。
まかないりょうり(賄い料理)
飲食店で、従業員のために用意する、手のかからない食事。
引用元:岩波国語辞典第八版 岩波書店
ただ、平安時代には「もてなす」料理だったのに、いまは「手のかからない料理」に格下げになってしまったことは謎であります。
方言としての「まかなう」とその使い方は?
「まかなう」は北国の方言!
「まかなう」は「身なりをととのえる」という意味で、外へ出かける人が寒くないようにとの気遣いを表した方言でもあります。
一方、方言の世界では「身なりをととのえる」の意味が生まれるが、北海道ではとくに冬の時期、外出する相手に向かって屋外の寒さに備えて十分に着こんでいきなさいとの気遣いの表現として使うことが多いようだ。
引用元:誤解されやすい方言小辞典 篠崎晃一著
北国独特「まかなう」の使い方は?
北海道や青森、岩手などの東北の北部などの代表的なやり取りをご紹介します。
訪問先から帰る際は、外へ出てからコートを着ることが礼儀と考えられています。
コートを持って玄関へ行くと、家人から「外は寒いから、ここでまかなってくださいね」と言われます。
言われてはじめて「有難うございます。では」とコートを着させてもらいます。
若い世代は「ここで着てください」「着て行けば」となりますが、ご年配のお宅へお邪魔すると、必ずと言っていいほどこのやり取りがみられます。
この「まかなう」という響きには、モコモコした毛布にくるまるような暖かさを感じませんか?
「まかなう」オールマイティな会話例
北海道や東北地方では特に寒い時期、あちらこちらで「まかなう」が飛び交います。
「暖かくしてね」編
冬眠から覚めたばかりだからな。寝ぼけないでちゃんとまかなって出掛けるよ。
父さん、帽子とネクタイだけでまかなったつもり?
散髪してスッキリしたよ。来年また来るね。
毛がなくてスースーするからまかなって帰ってね!
「早く着替えて」編
このように「寒くないようにしてね」と気遣う時に使いますが、なかなか着替えをしない人にも使います。
今日は怪獣で学校行きます。
はんかくさいこと言っていないで、早くまかないなさい!
よし、まかなったぞ。出動だ!
エサ食べるだけなのに、まかないすぎと違う?
「何でもアリなの?」編
実はこんな離れ業もあります。
しまった、シャンプーがない!リンスでまかなうか
安いっ!お小遣いでまかなえるわ
まとめ
「まかなう」は奈良時代、平安時代から「ととのえる」「食事の支度をする」という意味で使われていた古語でした。
北海道はじめ北国では、「身なりをととのえる」や「これでなんとかする」という意味の方言として、いまも使われています。
外へ出掛ける人が寒くないようにと気遣いの言葉である一方、ハダカ同然で走り回るような子供を叱る時にも使われます。
それも、子供が風邪を引かないようにという親の愛情、気遣いの言葉なのです。
どんな場面に使っても何とかまかなえてしまう、そんな便利な方言が「まかなう」なのでした。
あなたも明日、いえ今日からでも使ってみませんか?
この記事では、「まかなう」の意味や由来、北国でいまも使われている「まかなう」方言を使った会話例をご紹介しました。