虚心坦懐という四字熟語をパッと見て、皆さんどう思いますか?
まずは「虚」。「むなしい」って読み方もありますね。「嘘」にも似ています。
「坦懐」は?う~ん、よくわからないぞ?「懐(ふところ)」って財布?オレオレ詐欺みたいな事件の臭いがする、きっと人を疑えって意味なんじゃないかな?
実はぜんぜん真逆の意味なのです。漢字の持っている意味をこんなふうに捉えたんだなぁ。奥深いなぁと感心したりしています。
そして由来を調べるにあたり、友より虚心坦懐と言われた明治の文豪の人柄や、おふたりの友情について知ることができました。
この記事では「虚心坦懐(きょしんたんかい)」の意味、座右の銘としてお勧めしたい方、由来を探した結果と英訳、類義語をご紹介します。
虚心坦懐(きょしんたんかい)の意味は想像と違ったよ
虚心坦懐の意味を四字熟語辞典で調べてみました。
きょしん-たんかい【虚心坦懐】
心にわだかまりがなく落ち着いているようす。
引用元:大修館 四字熟語辞典
虚心坦懐とは「わだかまりのない心で、情に左右されない落ち着いた気持ち」のことです。
- 「虚心」わだかまりのない素直な心。
「虚」は「からっぽ」「うわべだけ」「精気や血液がなくなりうつろなさま」という散々な意味がありますが、ここでは「心がからっぽだからわだかまりがない」の良い意味として使われています。
- 「坦懐」情にとらわれない平らかな心。
「坦」は平ら、「懐」は胸中を意味します。
どうですか?虚心坦懐って、もっとワルな意味だと思いませんでしたか?悪役の方も私生活ではとっても優しいって言いますよね。それと同じで味のある四字熟語だと思います!
わだかまりがなくなったオレって味があるだろ?
虚心坦懐を座右の銘にして欲しい方
虚心坦懐を座右の銘としてお勧めしたい方はこんな方です。
- 人とは違う座右の銘をお探しの方
- 心からわだかまりをなくして素直になりたい方
- 家族から「いい大人なんだから、卑屈にならないで欲しい」と言われた方
- 情に左右されてはいけない立場の方
- 将来大物になりたい方、または見かけだけでもそう思われたい方
ワタクシの支持率が大きく低下してますけど虚心坦懐がモットーなので気にしません!
虚心坦懐の由来から明治の文豪に行きついたよ
四字熟語としてはまだ新人?
虚心坦懐の由来を調べたところ、全国漢文教育学会長 石川忠久氏の解釈が参考になります。
引用元:みんゆうNet (minyu-net.com)
(中略)四字の熟語としての古い用例はない。虚心は、『老子』に「聖人の治はその心を虚むなしくして、その腹を実みたす」(聖人が治めるやり方は民の心を虚(から)にし、腹をいっぱいにする)というのが基で、古典によく出てくる。何かをしてやろうなどと思わない心をいう。
坦懐には古い典故はない。坦は、平らの意で好悪の情などにとらわれない心をいう。懐は、心と同じ。
似た熟語としては、「虚心平意(へいい)」というのが、『管子(かんし)』に見える。平意(平らな心)も坦懐も同じこと。
「虚心坦懐に物を見る」と言えば、一切の先入観なしに、素直に物を見ることになる。「公平無私」や「無欲恬淡(てんたん)」も近い意味の語だ。
全国漢文教育学会長
石川 忠久
権威ある全国漢文教育学長の石川忠久氏が「虚心坦懐」の由来を調べていらっしゃいました。
四字熟語の由来は、中国の書物であったり、偉人の言葉が語源になっていることが多いですが、こちらを読むと「虚心坦懐」の由来はそれとは違うようです。
「虚心」は、中国の老子の書物の中に「心を虚むなしくて」の一文からきているようです。老子は春秋時代(前770年~前403年)に書かれたとされているため、はるか昔にあった言葉です。
「坦懐」については、古い典故(典拠となる故事)は見当たらないと書かれています。
まとめもともと別々だった「虚心」と「坦懐」が、誰が使い始めたかはわからないものの、いつしか合体して「虚心坦懐」という四字熟語になったと思われます。古い典故はないとのことなので、四字熟語としては新人かもしれません。
では、いつ頃から誕生した四字熟語なのでしょう?
100年前にはもう存在していたかも
はっきりとした由来がわからないながら、いつからこの四字熟語ができたのかを知る手がかりとして、こんな引用をご紹介します。
田山花袋をご存知ですか?代表作の「蒲団」の発表により、自然文学の代表と言われた明治生まれの文豪です。
田山花袋が58歳で亡くなるまで親交のあった島崎藤村が、友に贈る追悼文の中で、彼の人柄をこう表現しています。
もう一度田山花袋に帰らうではないか。あの熱情を学ぼうではないか。あれほどの瘠我慢と、不撓不屈の精神と、子供のやうな正直さと、そして虚心坦懐の徳とを誰が持ち得たらう。
引用元:古本夜話262 内外書籍の『花袋全集』とその後 – 出版・読書メモランダム (hatenablog.com)
吾友、花袋子が熱心な文学生涯は明治二十四年の早い頃から、およそ三十八年の長い間に亙つた。彼こそは文学革新の父と呼ばるべき人である。今日の読書人がこの全集をさぐるなら、以前とすこしも変ることのない良き師、良き友をこゝに見出すであらう。
田山花袋について、「あれほどの瘠(やせ)我慢、不撓不屈の精神、子供のような正直さ、そして虚心坦懐の徳を持つ人は他にいるのだろうか」と書いています。
田山花袋が亡くなったのは1930年。この時に書かれたとすると、少なくとも100年前には「虚心坦懐」が存在していたことになります。
引用元:https://www.city.tatebayashi.gunma.jp/sp006/index.html
田山花袋記念文学館より引用させて頂いたお二人の写真です。左側が田山花袋、右側が島崎藤村です。
島崎藤村が明治4年3月25日、田山花袋が同年の1月22日生まれと、たった2カ月しか違いません。お互い24歳の時に知り合い、それから37~38年の親交があったそうなので、お互いを知り尽くした間柄であったことでしょう。
親友とも呼べる島崎藤村から「虚心坦懐の徳」と言わしめる田山花袋は、正真正銘の虚心坦懐だったと思われます。
写真の田山花袋の風貌を拝見しても、まさに「虚心坦懐、不撓不屈」を体現されているようにお見受けします。虚心坦懐の徳を持っている田山花袋の小説を読んでみたくなりました。
「虚心坦懐」の由来をまとめると、中国から日本へ渡り四字熟語となった「虚心坦懐」は、言葉選びに長けた文豪が友への賛辞として用いるほど、日本人の心にマッチし、広く受け入れられていったのではないでしょうか?
ちなみに「不撓不屈」の意味は、「決してくじけないこと」です。
虚心坦懐の英訳が直球でわかりやすいよ
「虚心坦懐に話し合う」の英語バージョンです。
talk frankly (with);have a heart-to-heart talk(with).
「フランク」、「ハートとハート」という単語から、英語が苦手な私でも何となく言わんとすることはわかります。英文の方が言わんとする事がわかるような気がしませんか?
マイファミリーのルールはハートツーハートね、オケー?
お父さん、フランクに言わせて頂くとアメリカドラマの見すぎです
虚心坦懐の類義語は渋好みの方にお勧め
虚心坦懐の類義語は明鏡止水(めいきょうしすい)、枯淡虚静(こたんきょせい)などがあります。
- 「明鏡止水」澄み切って邪念がなく、落ち着いた心のこと。「明鏡」は明るく曇りのない鏡。「止水」は静かな水。
- 「枯淡虚静」欲がなくさっぱりしてしぶい趣味があり、わだかまりがないこと。「枯淡」は俗気や派手さがなく、しぶい趣があること。「虚静」は心静かでさっぱりしていること。
小学生の座右の銘が枯淡虚静って私たちの影響かしら?
両親を見てると派手さのないしぶい趣味に憧れます
まとめ
虚心坦懐(きょしんたんかい)の意味は、「心にわだかまりがなく、落ち着いている様子」です。
虚心坦懐を座右の銘としてお勧めしたい方は、心からわだかまりをなくして素直になりたい方、将来大物になりたい方、見かけだけでも大物に近づきたい方、情に左右されてはいけない立場の方、人とは違う座右の銘をお探しの方です。
「虚心坦懐」の由来を調べると、中国の老子に「虚心」をあらわす一文がありました。「坦懐」に古い典拠は見当たりませんでした。
いつしか「虚心」と「坦懐」が合体し、明治の文豪が追悼文の中で友を敬う四字熟語として用いるほど、日本人の心に受け入れられていったのではないでしょうか。
虚心坦懐の類義語には、明鏡止水(めいきょうしすい)、枯淡虚静(こたんきょせい)などがあります。少し意味が違うので、皆さんによりピッタリな座右の銘が見つかりますように。
この記事では「虚心坦懐(きょしんたんかい)」の意味、座右の銘としてお勧めしたい方、由来を探した結果と英訳、類義語をご紹介しました。